「SF的手法によるテラフォーミング、補足としてのテキスト」
「エレメント同士の衝突」をメインテーマに、物質世界、自然界、現実世界など生命一般も含めたエネルギーを基本要素とし、そのヴァリエーションを描く全42曲計20分で構成されたコンセプトアルバム。人間模様はもちろん、歴史、文化、思想そして信仰など様々な2項間を仮定した場合において生じるエレメントの変化や動き、音響を予測したサウンドスケープミュージックの新たなる側面を提示する。
上記のテキストはプレスリリースの為に用意されたものだが、個人的な想いとしてはやはり「それ」を伝えるに場所があるとするならば、たかだか4行程の文章では諸々足りないのである。なのでこの様な不特定性と、なんなら不確定性ともしかしたら多少の不正確な記述すら介入する(混在する)クローズドスペース(ブログ・場所・都市・船内)に、今回の「補足としてのテキスト」を植えつけておきたい。
それはつまり、より楽曲を聴き入れてもらうための(回数としての)もしくはその耳のガイドになるためのものである。
全42曲すべてとはいかなかったが、それら幾つかにテラフォーミング(意:現状では居住が不可能な、もしくは困難な惑星に、技術者や科学者が介入して星を住居可能な、つまり入植可能な惑星に変えてしまう、この手法を地球化・テラフォーミングと呼ぶ。参考文献は白水社クセジュシリーズのジャック・ボドゥによる『SF文学』)を施したトラックガイドによってこの作品がより一層豊かなものになれば幸いです(もちろんこれらは音楽を改変する為のものではなく、あくまで文学的な操作によって聴衆者をこの特殊なフォーマットである42曲20分に適応させるための、ある一つの方法である)。
冒頭のsurface form driver (0:25)についての記述から。自然主義や心理的真実主義など、現実世界を主題に扱う文学のほとんどが地球を地上にして事柄や物語を連続・連結させていくわけで。この楽曲は正しくそれの体現であり、アムニジアックな作風や激しいマニピュレーションによるユクロニーなどそれら記憶操作や一般的非現実をすべて排除した(つまりshotahiramaがこれまで好んで利用してきたSF的手法からの離脱)ピュアトーンとシンプルな音響合成のみによるリアリズムの追及である。マテリアルは香港島のタクシー内の音を収録したもので録音者は本制作に携わって頂いた香港のフィールドレコーディストEdwin Lo氏によるもの。しかし幻想性への回帰・懐古は必須であり、"take you there (1:15)" から自然主義への原則法則は解消し徐々にSF思想へ戻っていく訳で。サイバーパンク以降のヴァーチャル・フィクションとテン年代以降の電子音響という音楽形式、その2項間のハイブリッド化(混種化)。shotahiramaもしくはこの「ハイブリッド」タームに関してはSad Vacationの構造基盤を考えるうえで随分と初期には浮かび上がっていたものであった。そもそも「混種の考え」は機械と人間の2項間を結合させたサイバーパンクグループからの移送であり、つまり私にとってこのオマージュはその親であるギブスンへの変わらぬ愛、それが大袈裟ならば、これはコンピューターミュージックその2.0である証を示したかった為である。本作で1分を超える楽曲は長尺の部類にあり、それは通常の人間の聴覚で言えば10分近くの時間経過を感じる私にとって、2曲目にこれを配置すること自体紛れもなく挑戦的な姿勢にあたる。少しでも彼ら(スターリングも含め)に近づきたいがための愛。
現代のユートピアに対するアンチテーゼなる反ユートピア、つまりはディストピア文学も恐らく私にとってみれば音楽制作へ変換可能なキータームのひとつである。が、しかしディストピアに関してはハロルド・ブルーム一派周辺にあるポストモダン期の作家しか個人的には経験しておらず(もしくは意図的に限定した事からもこの結果に結びつく)その所謂開拓者たちにおけるアーリーディストピア、その経験はほぼ無いに等しい。そうした場合において、前者のそれらは世界の終焉ないし文明の崩壊(ジム・クレイス)、都市の崩壊(ドン・デリーロ)、自然災害(コーマック・マッカーシー)などが一般的であり、後者のそれには恐らくその地上での災害に対して比較的人類の生存率を高く演出している「地下への想い:地下としての新世界」地下文明がトピックに挙がるのだろう。その未開の地にとりわけ私は魅了されている。things fall apart (0:29)では香港のサブウェイにて記録した「窒息者の都市=地下鉄」その残響性のみでサウンドファイルを29秒データにコンクレート形成したもの。この秒数でも800近いファイルを利用している。
「カオスの紡ぐ」デパートの渡り廊下で録音したサウンドファイルや、エレベーター内、また公園などあらゆる環境面にて偶然収録されていた赤ん坊の泣き声を見つけたので「そこ」のみを抽出し、さらにはそれらを録音記録した当日の時間ごとにグリッド上に置きならべる。
そして、ある種のタイムパラドックス(カオス理論におけるバタフライ効果など)が生まれる現象をシンセサイザーの振り子運動・フィードバックと合成していく事で演出していく事に憑りつかれる私。散逸力学に触れた文献で蔵本由紀先生による非線形科学というものがあるのだが、状態空間つまりこの場合はファイルが並べられたグリッドラインにあたり、その空間内で繰り返されるループ・周期運動を、時間ごとに振り分けられてあるそれぞれの「その」決められた場所から「それぞれ」が衝突しなんらかの変化を少しずつ与えあった場合。例えば4月に録音された泣き声ループAが翌月5月に録音された泣き声ループBに「ある時点」で衝突し、それらのループ軌道が変化し、BがAよりも前に位置する状況に変化した場合。これはタイムパラドックスと呼べる現象を疑似的にサウンドファイルで表現できているのではないか。画面上では回転するパッチをドラッグにドロップでリポジすればいいんだが。うーん、これはいつかもっと複雑化したうえで、もしくは一旦シンプルに解いたうえで、もう一度構築してみたい。
「現実模倣」をテーマに完成させた39秒 "life is hard" は、マスタリングの際にだいぶシフトチェンジしたもので、オリジナルのファイルよりも全体的に音量を下げた形でディスクフォーマット化しているのがこの曲の特徴であろうか。突然下げられるヴォリュームはもちろん意図的であり、これを見事に演出してくれたマスタリングのuhitokiyosue先生には引き続き大きな愛と尊敬の念を(そしてこれからも)。
そしてその「現実模倣」だが。高い文学性と、巨大で強大な幻視の力そして異次元の様な組み込みが施された比喩の力、それらがディストーテッドした形で入れ子式の構造に注ぎ込まれた作家、私が最も崇拝するアメリカ現代文学からのアムニジアン、スティーヴ・エリクソンへのオマージュとして制作を創めたこれにおいて、リアリズムの音響再現にチープなイミテーションめいた模倣感が欲しかったのだ。このトラックは「身体性の抑圧」が完成された幾つかの「死んだドローン」をレイヤリングした、構造上、そして聴覚上は非常にシンプルで簡潔な音楽として秒数が進んでいく。ある男が生まれて死ぬまでの間を遥か遠くからエリクソンが幻視した際に語れるものは大半が、いやそのすべてが著しく記憶障害的・感覚中枢の喪失・言語麻痺した機能不全の文体から成る(しかしそれらは非現実へリンクしやすいサイバースペース内において特別な力を発揮する)ヴァーチャルフィクション(上岡 伸雄先生の名作/国書刊行会より)だが、しかし世のすべての男が「そう」描かれる人生を送れる訳ではない。もちろんあんな人生望みはしないが、ただ、エリクソン文学に恋目覚めた私が、儚く塵となる誰かの・自分の・その悲しい旅行を描く際に模倣出来るヴィジョンは現実世界にしか存在せず(実際に私に幻視力があれば別だが)、しかしそれこそリアリズムに居座る男の悲しい性であり、加えてそれを模倣し表現するとなれば(現代音響ゼロ年代に死んだ)ドローンという手法を甦らせるほかない。
自己増殖していったサウンドファイルが己の意思で結合していったセルフコンクレートから成るCDアルバム。とはいえ正確に言えば、こちらの操作外で生じたサウンドを後に編集したものも多く存在する。情報化した文明とそれが産み落とす人工知能とデータベース上のブシュケ(魂)。ブルースだ。あらゆるものの存在と複製が混在する仮想現実世界からのシグナル、例えばルートヴィヒ・クラーゲスが呼ぶリズムの本質。それを集めただけの記録と記憶、よりアナログや人間的感情を抑制したもの。言葉での後付解説は非常に容易いが、実に上手く出来た作品ではないかと個人的には満足しているがこれも42曲20分のエディットが限度でありそれ以上のデータにある一定以上の価値観を見つけ出す事は出来なかった。20分で終わり、完結、42のフレーズ、それで終わり。
最後に、本作Sad Vacationを制作するにあたっての幾つかの参考文献を紹介しておきたいと思う(もちろんすべてが書籍になる)が、上記の長文ではそのほとんどがSF的もしくは文芸作品からの影響や応用、つまりはリットフォーマットでのテラフォーミングだったので、それだけではなく音楽思想的な書籍も幾つか参考にしていましたぞ、音楽だし、というようなアピールも必要だと思ったので。以下がそれになります。
まずはクリス・カトラーによるファイル・アンダー・ポピュラー(水声社)音楽形式の必然性と選択可能性とをターム付けしたマクルーハンアイディアに沿って三項対立の様式を提起。そこから文学的、美学的表現の為に用いられる音楽を、ケージ軸でコンセプションとパーセプションに分離する。
次に、小杉武久による音楽のピクニック(書肆風の薔薇)ネオダダベクトルで進む本書は「即興の旅」がピーク。意識の無産化へのプロセス、所有の個的情念、資産化されたレールの上をしか走り得ない音楽は決して鳥の様に無産の空間をはばたく事はない。末の高橋悠治まで、インプロ論としては最高の威圧感。ダニエル・シャルルらが参加した音楽美学(勁草書房)もまたケージ以降に必須の書籍。ポストモダン的状況下における音楽美学の可能性、つまりノイムジークへの探求そのアプローチ法。「音のイマージュ」ではクセナキスの形式理論に対してケージが構造領域の存在意義に触れた事をスリリングに描く。
マイケル・ナイマンによるケージとその後(水声社)。序盤の「歴史的背景」にてシェーンベルクの下を離れ反音列技法、反調整音楽と、和声による構造をボイコットし持続による構造を正当化させた独自のリズムプロダクション誕生秘話、偶然性の導入も荒削りだがスピード感はある。とまぁすべていつだかtwitterで発言した文章だが、他にも音楽的時間の変容(現代思潮新社)や、文学/特集・耳の文学(岩波書店)など。

[色分けされた別々の時間と空間が、ドラスティックに引き裂かれながら妖しくとおりすぎていく。聴いたことあるようなないような、聞こえたことあるようなないような。平間くんの耳、おもしろい] -evala (port)
Innovational electronic music from Japanese sound-artist shotahirama. Capturing the intense force of various Hong Kong (City Walk) field-sounds (recorded by Hong Kong field-recordist Edwin Lo), and also captured in Tokyo, London, New York to create a mind blowing audio sculpture. Unique blend of cracked electronics, near awkward ambient textures that always seem to flow smoothly like the most natural of sounds around, building up a great set of modern electronic music. "Sad Vacation" contains 42 tracks (total:20min) slowly evolve in great patches of aural beauty.
Title: Sad Vacation
Artist: shotahirama
Price: 1,890 YEN (Tax incl)
Label: SIGNALDADA
Distributed: p*dis/Inpartmaint
Reviewed: Sound&Recoring (2011. May)
Catalog#: SIGNAL003
Format: CD, Album
Country: Japan
Release: 24th March 2011
All sounds by: shotahirama 2009-2011
www.signaldada.com
buy at:
Tower Record, HMV, Amazon, itunes, GARBAGE COLLECTION and more...
Field recorded by: shotahirama (London 2008, Tokyo 2009-2011)
and Edwin Lo (Hong Kong 2011)
Edited by: shotahirama and uhitokiyosue 2011
Mixed by: shotahirama and uhitokiyosue 2011
Mastered by: uhitokiyosue 2011
Photo by: Jaime de Almeida
Cover Photo by: Edwin Lo
Thanks to: Yukitomo Hamasaki (mAtter)
www.matter.jp
Special Thanks to: evala (port)
port-label.jp
© 2011 SIGNALDADA/All right reserved
tracks:
1. surface form driver (0:25)
2. take you there (1:15)
3. things fall apart (0:29)
4. kaos baby (1:30)
5. life is hard (0:39)
6. generators (0:18)
7. brain control (1:10)
8. takashimaya (0:34)
9. keeping it moving (0:28)
10. windy wish trees (0:10)
11. slowly fading (0:21)
12. lost in translation (0:55)
13. boys surface (0:16)
14. all done with mirrors (0:03)
15. guided by voices (0:07)
16. you're eyes only (0:14)
17. you're heads only (0:14)
18. NY state of mind (0:29)
19. moon environment fiction (0:06)
20. London calling (1:41)
21. sad vacation tokyo (0:08)
22. past and collide (0:12)
23. difference between noise and (1:10)
24. sick vacation (0:20)
25. sometime today (0:10)
26. away from the public (0:08)
27. eye of the storm (0:05)
28. how to reform mankind (0:15)
29. tomorrow morning (0:12)
30. again morning (0:10)
31. the river that flows into the sand (0:10)
32. midnight is (0:33)
33. I love u (1:10)
34. as the moon spins around (0:09)
35. vertical form (0:14)
36. you pretend you own this place (0:07)
37. crescent (0:04)
38. keeps coming back (0:17)
39. passing me by (0:16)
40. verses from the abstract and concrete (1:03)
41. body control (0:16)
42. frozen river (1:10)
2011年3月24日発売!ゼロ年代を代表するサウンドアーティストとして国内のみならず海外でも精力的なライブ活動を続け、近年ではevala氏、中原昌也氏らと共にツアーブッキングされる他、リット、クリティークさらには現代思想など音楽外的なコンセプト作品を多く発表し続け、現代の電子音響シーンでは他に類を見ない存在となったshotahirama。本作は自らが運営するセルフレーベル SIGNAL DADAより「エレメント同士の衝突」をメインテーマに、物質世界、自然界、現実世界など生命一般も含めたエネルギーを基本要素とし、そのヴァリエーションを描く全42曲計20分で構成されたコンセプトアルバム。人間模様はもちろん、歴史、文化、思想そして信仰など様々な2項間を仮定した場合において生じるエレメントの変化や動き、音響を予測したサウンドスケープミュージックの新たなる側面を提示する。
shotahirama profile:
アートレーベルmAtterのパブリケーションに携わり、自らもshotahirama名義にて執筆やオペラ脚本 (2011年ドイツ・ビーレフェルト公開の古舘徹夫氏作品 Death Fragments - Buchner, 23 years old: にて英訳を担当する) そしてサウンドクリエーション等、文学から音楽へとスリップストリームな作品/活動を展開するニューヨーク出身の作家、平間翔太。ダダイズムの既成の秩序や常識に対する否定、攻撃、破壊といった思想、また一部のポストモダン文学に見られる病的な反リアル、認知不協和(アムニジア、テンポラルディストーション)さらにはSF特有のテーマやモチーフに言語、シンボルやイメージの使用法等リット的ファクターに強くリンクしたデバイス作品を発表する。2010年にはセルフレーベルとなるSIGNAL DADAを設立し個人名義の作品を中心にCDリリース運営をする。
06年には神奈川県横浜市が推進する歴史的建造物を活用した文化芸術創造の実験プログラム、bankART1929に出展されたサウンドインスタレーションに参加。08年にイギリス・ロンドンを中心に4ヶ所を廻るUKツアーを成功させ、10年11月には「21世紀、東京セントラルイーストはクリエイションの一大実験場に変貌する」と掲げた東京デザイナーズブロック・セントラルイースト実行委員会が組織した複合イベントCET10に出展されたインスタレーション作品[forest](恵比寿gift_lab作品)にてサウンドデザインを担当。また、同年12月にはLasse MarhaugやDickson Deeらが過去に出演を果たしている香港のVideotageギャラリーにてライブイベントを行う。その他にも東京は六本木SuperDeluxeを中心に、山梨、京都、福岡と国内各所でライブ活動を行い、これまでにクリストフ・シャルル (mille plateaux)、畠山地平 (spekk)、evala (port, ATAK)、中原昌也、古舘徹夫 (subrosa)、美川俊治(非常階段)、秋山徹次、足立智美(Tzadik)、INNER SCIENCE等多くのサウンドアーティストと共にイベント出演を経験してきている。その他fennesz sakamotoによる
"cendre"そのヨーロッパツアーにてフィルムアーティストとして参加していたイタリア人映像作家Giuseppe la spadaとの共作がmAtterよりDVD作品として発売が予定されている。
これまでの主なリリース作品:
the silence was warm vol.3(Symbolic Interaction、11.02.16)CDコンピレーション: shotahirama、Yu Miyashita、Taishin Inoue 他参加
NMSzine (mAtter、10.11.15)CDR/ZINEコンピレーション: shotahirama、Yukitomo Hamasaki、Jaime De Almeida 他参加
Spook country (SIGNALDADA、10.09.29)CDRアルバム
Days between stations (SIGNALDADA、10.09.29)CDRアルバム
Unhappy American Lost In Tokyo(Re-Records、10.05.04)CDRアルバム
Improvised Music From Japan 2009(IMJ、09.12.20)CD/BOOKコンピレーション: shotahirama、渋谷慶一郎、畠山地平、さや 他参加
shotahirama is a Sound Artist/novelist from New York, US and currently live in Tokyo, Japan. Inspired by Modern Art, Dada, Bauhaus and Postmodern literature. Also known for the founding of the SIGNAL DADA, Edition NIkO (NIkO Label), ENG (electronoise group) and JANDEATH. His musical focus is characterized by digital synth and field recording with computer software processing and improvisation, which generates a large palette of possible sounds including; grainy textures, complex patterns of smooth drones, and microscopic clicks and cuts. He is currently working under mAtter from early 2010.
